大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)3707号 判決 1985年6月21日
原告(反訴原告)
株式会社カーリング
被告(反訴被告)
新東宝自動車株式会社
ほか一名
主文
反訴被告らは各自、反訴原告に対し、二六万八七四〇円及びうち二三万八七四〇円に対する昭和五九年六月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
反訴原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告らの負担とする。
この判決は反訴原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 反訴請求の趣旨
反訴被告らは各自、反訴原告に対し、九六万六一四〇円及びうち八七万八三四〇円に対する昭和五九年六月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は反訴被告らの負担とする。
仮執行の宣言。
二 反訴請求の趣旨に対する答弁
反訴原告の請求を棄却する。
訴訟費用は反訴原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 反訴請求の原因
1 事故の発生
別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
2 責任原因
(一) 使用者責任(民法七一五条一項)
反訴被告新東宝自動車株式会社(以下「反訴被告会社」という。)は、反訴被告川田清徳(以下「反訴被告川田」という。)を雇用し、同人が反訴被告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。
(二) 不法行為責任(民法七〇九条)
反訴被告川田の前方注視を怠つた過失によつて本件事故を発生させた。
3 損害
(一) 修理費用 三七万八三四〇円
本件事故により被害車は、テールランプ、リアーバンパーの外、右側クオーターパネル、ロアーバツクパネル、ラツケージコンパートメントなどの損傷を受け、その修理費として三七万八三四〇円を要した。
(二) 代車使用料 二〇万円
修理期間中の代車使用料として二〇万円を要した。
(三) 評価損 三〇万円
本件事故により被害車には少なくとも、三〇万円の格落ち損害が発生した。
(四) 弁護士費用 八万七八〇〇円
4 よつて、反訴原告会社は、反訴被告らに対し、各自九六万六一四〇円及び弁護士費用を除く八七万八三四〇円に対する反訴状送達の日の翌日である昭和五九年六月二日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 反訴請求の原因に対する認否
1 反訴請求の原因第1、2項の事実は認める。
2 同第3項(一)の事実のうち、被害車の右テールランプのガラスが少破し、リアーバンパーが少し歪んだ程度の損傷を受けたことは認めるが、その余の点は争う。修理費用はせいぜい一〇万円程度である。
同(二)の主張は争う。被害車の修理に関する期間は多くて三日である。
同(三)及び(四)の主張は争う。
3 同第4項の主張は争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 事故の発生
反訴請求の原因第1、2項の事実は当事者間に争いがない。
したがつて、反訴被告会社は民法七一五条により、反訴被告川田は同法七〇九条により、各自反訴原告会社に生じた後記損害を賠償する責任がある。
二 損害
1 修理費用 二三万八七四〇円
反訴請求の原因第3項の事実のうち、被害車の右テールランプのガラスが少破し、リアーバンパーが少し歪んだ程度の損傷を受けた程度における事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一二号証、証人浅田甚吉郎の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第四号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第三号証(乙第三号証は成立に争いのない甲第四号証と同一内容のものである。但し、後記採用しない部分を除く)、証人浅田甚吉郎の証言によつて反訴原告会社主張通りの写真であることが認められる検乙第一ないし検乙第八号証(但し、被写体が被害車であることについては争いがない)、反訴被告ら主張通りの写真であることに争いのない検甲第一号証の一、二、証人浅田甚吉郎の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 被害車は、本件事故により、テールランプ、リアーバンパーの外、右側クオーターパネル、ロアーバツク、ラツケージコンパートメントドアなどの損傷を受けた。
(二) 反訴原告会社は反訴被告らに対し、本件事故による被害車の修理費用として六五万四四一八円、代車料として二〇万円、以上合計八五万四四一八円を要求したが、反訴被告らは、これに応じなかつた。
そこで、反訴原告会社の従業員修理工四木亘(以下「訴外四木」という。)は、アジヤスター浅田甚吉郎(以下「訴外浅田」という。)に対し、本件事故による被害車の損害(修理費用の査定)を依頼したところ、訴外浅田は、昭和五九年三月一九日、反訴原告会社において訴外四木立会のもとに同人から本件事故による被害車の損傷個所の指示説明を受けた。その際訴外四木は、訴外浅田に対し、被害車の修理費用を八五万四四一八円(但し、代車料二〇万円含む)と見積つた見積書(前掲乙第三号証)を交付し、部品は全部交換し、右見積書に基づいて損害を査定してくれと要望した。しかし訴外浅田は、訴外四木から指示説明を受けた本件事故による損傷個所を現実に観察して被害車の修理費用を合計四〇万五三〇〇円(乙第四号証)と見積つた。
(三) 訴外浅田が見積つた右四〇万五三〇〇円の中には、本件事故とは関係のない左側クオーターパネルのへこみの部分も含まれており、それに関連する修理個所とその修理費用は、リヤーバンパーサイド(左)が二三六〇円、クオーターパネル(左)が二万六六〇〇円、工賃が二万四〇〇〇円、以上合計五万二九六〇円である。したがつて、この五万二九六〇円は、本件事故とは関係のない損傷個所の修理費用であるので、前記見積額四〇万五三〇〇円から控除されるべきものである。
(四) 訴外浅田は、被害車の損傷個所を観察した際、右側クオーターパネルとロアーバツクパネルは板金修正をするだけで十分であつて、敢えて取替える必要はないと考えたが、訴外四木からの強い要望があつたためにこれらを取替えることとし、これを前提として、右側クオーターパネルは、二万六六〇〇円、ロアーバツクパネルは一万円、これらの取替えに伴つてリヤーウインドグラスの脱着の工賃一万八〇〇〇円、ヘツトライニング一部の脱着の工賃四〇〇〇円、クオーターパネル、ロアーバツクパネルの取替工賃六万八〇〇〇円が必要となり、以上合計一二万六六〇〇円と見積つた。しかし、板金修正をした場合の修理費用は、右側クオーターパネルは七〇〇〇円、ロアーバツクパネルは六〇〇〇円、以上合計一万三〇〇〇円となり、リヤーウインドグラスの脱着の工賃一万八〇〇〇円、ヘツトライニング一部の脱着の工賃四〇〇〇円、クオーターパネル、ロアーバツクパネルの取替工賃六万八〇〇〇円は不要となる。したがつて、右側クオーターパネルとロアーバツクパネルは板金修正をするだけで十分であり、敢えて取替える必要はなかつたものであるから、前記一二万六六〇〇円から一万三〇〇〇円を差引いた一一万三六〇〇円の修理見積額は、本件事故とは相当因果関係がないと認めざるを得ない。
以上の事実が認められる。
証人車田一二三は、本件事故による被害車の修理費用は、約一〇万円程度で足りる旨証言し、同証人の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一〇号証には、被害車の修理費用の見積総額は九万四〇九〇円である旨の記載部分が存する。
しかしながら、証人車田一二三は、修理個所は明確には言えない旨の証言をしており、また同人の証言によれば、甲第一〇号証記載の前記見積額は、反訴被告会社が、写真(前掲検甲第一号証の一、二)と口頭による事故状況等を資料として見積つたものであり、被害車の損傷個所を現実に観察しての見積りではないことが認められ、証人浅田甚吉郎の証言及び弁論の全趣旨によれば、写真(前掲検甲第一号証の一、二)と事故状況のみによつては、修理費用の正確な見積りはできないことが認められるところ、これらの事情に照らすと、証人車田一二三の前記証言及び前掲甲第一〇号証の九万四〇九〇円の記載部分はいずれも採用し難い。また前掲乙第三号証(前掲甲第四号証も同一内容)には、被害車の修理費用が八五万四四一八円(但し、代車料二〇万円含む)である旨の記載部分が存するけれども、これも証人浅田甚吉郎の証言と対比して採用し難い。
なお、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第二二号証、弁論の全趣旨によつて反訴被告ら主張通りの写真であることが認められる検甲第二号証の一、二によれば、大阪自動車株式会社淀川支店整備工場は、昭和五九年一一月一四日大阪五八も五一九三号車両のリヤーバンパー、右リヤーランプ、右リヤーフエンダーなどの修理費用を五万五一二〇円と見積つていることが窺えるけれども、証人浅田甚吉郎の証言及び弁論の全趣旨によれば、右車両の損傷部位と本件被害車の損傷部位とは異なつており、したがつてその修理費用の適正額の比較はできないことが認められるから、甲第二二号証、検甲第二号証の一、二によつては、未だ前記認定を左右するに足りない。
他に前記認定をくつがえすに足りる的確な証拠はない。
以上の事実を総合すると、本件事故と相当因果関係のある被害車の修理費用は、二三万八七四〇円であると認めるのが相当であり、反訴原告会社は修理費用として同額の損害を被つたというべきである。すなわち、被害車の修理費用は、訴外浅田が見積つた前記四〇万五三〇〇円(乙第四号証)から、本件事故とは関係のない左側クオーターパネルのへこみの部分等の修理費用合計五万二九六〇円と、右側クオーターパネル、ロアーバツクパネルの修理費用合計一二万六六〇〇円のうち本件事故とは相当因果関係が認められない一一万三六〇〇円の合計一六万六五六〇円を差引いた二三万八七四〇円であると認めるのが相当であり、反訴原告会社は、本件事故により修理費用として同額の損害を被つたというべきである。
(算式)
四〇万五三〇〇円-(五万二九六〇円+一一万三六〇〇円)=二三万八七四〇円
2 修理期間中の代車使用料 認められない
反訴原告会社は、被害車の修理期間中の代車使用料として、二〇万円の損害を被つた旨主張し、前掲乙第三号証(前掲甲第四号証も同一内容)中には、代車料は、二〇万円(一日一万円×二〇日=二〇万円)と見積つた旨の記載部分が存する。
しかしながら、乙第三号証は、本件事故当日である昭和五九年一月二〇日に作成されていることは、同号証の作成日付から明らかであるから、同号証の右記載をもつて直ちに反訴原告会社が二〇日間現実に代車を使用したものとは認められず、他に反訴原告会社が、本件事故により代車を必要とし、現実に代車を使用したことを認めるに足りる証拠はない(なお、反訴原告会社に対し、右の点について立証を促したが、同会社はこれに応じなかつた。)。
したがつて、反訴原告会社の右主張は採用できない。
3 評価額 認められない。
反訴原告会社は、評価損として三〇万円の損害を被つた旨主張するが、本件の全証拠によつても、これを認めることはできない。すなわち、事故により破損した個所を修理しても、なお価格の減少がある場合、例えば、修理することができなかつた機能、美観の障害、使用期間の短縮、単に事故車であるということのみで下落する交換価格の低下などの場合は、その減少分が損害となり、被害者は加害者に対し、その減少分を損害として請求しうるものと解されるが、本件の全証拠によつても、右価格の減少があつたことを認めることはできない。
したがつて、反訴原告会社の右主張も採用できない。
4 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、反訴原告会社が反訴被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は三万円と認めるのが相当である。
三 よつて、反訴被告らは各自、反訴原告会社に対し、右二の1、4の合計二六万八七四〇円及び弁護士費用を除く二三万八七四〇円に対する反訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年六月二日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、反訴原告会社の反訴請求は右の限度で理由があるので正当としてこれを認容し、その余の請求は理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 喜如嘉貢)
交通事故目録
1 日時 昭和五九年一月二〇日午前九時三〇分頃
2 場所 大阪府八尾市西久宝寺二七八番地先路上
3 加害車 普通乗用自動車(大阪五五え八八―七九号)
右運転者 反訴被告川田清徳
4 被害車 反訴原告会社所有の普通乗用自動車(大阪五九ね五七―六一号)
右運転者 訴外松尾清一
5 態様 前記日時場所において加害車が被害車に追突した。